解剖学的概説
別名は踵骨腱という。本体は下腿三頭筋の停止腱で、踵骨の踵骨隆起に付着している。下腿三頭筋は、ふくらはぎの膨らみを作る筋で、アキレス腱とともに、下腿の後面で皮膚の上からよく触れる事ができる。下腿三頭筋は、その名を示す通り3つの筋から成り、最も表層にある腓腹筋には大腿骨下端の内外両側よりおこる内側頭と外側頭があり、その深層に扁平で幅の広いヒラメ筋がある。
損傷分類
・アキレス腱断裂
・アキレス腱障害
 ーアキレス腱周囲炎
ーアキレス腱症を伴うアキレス腱周囲炎
ーアキレス腱症
⑴アキレス腱断裂
『病因』
器械体操、床運動の蹴り、テニスでの移動の瞬間、バレーボールでのスパイクのためのジャンプなど、腓腹筋の急速かつ強い収縮を行った時に多い。断裂前に何らかの疼痛や張りを訴えていた例も少なくない。有痛期間は2日〜4年まで様々だが、ほとんどが1ヶ月以内である。病理学的にも全例に程度は異なるが変性を認め、根底に加齢あるいはオーバーユースによる変化があると考えられている。
『症状』
受傷の際、患者は断裂音(ボキッ、バチッ、バーン、バチン、プツンという表現をする)を自覚する事が多い。また誰かに殴られた、蹴られた、バット・ボール・鉄の玉が当たったように感じ、思わず後ろを振り返ることもある。
・自動運動による足関節底屈は可能である(足底筋、指屈筋、後脛骨筋による)。
・爪先立ち歩行は不可能だが、ベタ足歩行は可能である。
→歩けるからといって看過しいないようにしなければならない。
『診断』
1.陥凹
触診により断裂部には必ず陥凹を認める。近位から遠位へ、特に2日以上経ち腫脹のある時には十分注意して触診する。圧痛は必ずしも強くなく軽度のこともある。
2.トンプソンテスト
伏臥位とし、腓腹筋を大きく手で挟むようにして圧迫する。
正常→足関節の底屈がみられる。
断裂例→まったく底屈しないか、あるいは極めて軽度の底屈しかない。
☆まず健側で底屈の度合いをみてから患側を調べ、比較すれば明らかである。
3.マットレステスト
腹臥位で診察台の端から足部を出して足関節を屈曲(底屈)位にしたまま膝関節を自動屈曲で90°まで屈曲させる。正常では屈曲(底屈)位を保持できるが、保持せずに中間位や軽度伸展(背屈)位に落ち込んだものが陽性である。新鮮例、陳旧例ともに使われる検査である。
『鑑別診断』
・腓腹筋肉離れ
腓腹筋を急激に伸展する動作で起こりやすい。テニスのサーブで踵を着地し足関節を背屈した時によく発生するためテニスレッグとも呼ばれる。損傷は腓腹筋内側頭の筋腱移行部に多く、この部の圧痛・腫脹・他動背屈痛・自動底屈痛がある。重症例では断裂部に陥凹を触れる。
『対処法』
以下のテーピングはアキレス腱断裂を生じた時の応急処置法である。ポイントはアキレス腱をこれ以上伸ばさないように、断端同士をお互い引き合わせるように、すなわち足関節底屈位で固定する事が大切である。また、断裂部は腫脹・内出血を生じるので直接テープで圧迫しないようにして、氷やアイスパックなどで冷却する。*受傷直後のアイシングは固定を妨げ(腱の緊張を起こす)となる可能性があるため控えるべき!
『治療』
保存療法ではギプス固定(1〜5週間)後に機能的装具療法を行う事で、早期復帰が試みられている。手術療法では早期自動運動に耐え得る縫合法で縫合し、直ちに機能的装具療法を行うか、1週間程度のギプス固定後に機能的装具療法を行うことにより早期競技復帰が可能である。
『予後』
治療法によりスポーツ復帰の時期は異なる。保存療法の方が若干、再断裂率が高い。
☆患者指導、ケアのポイント☆
つっぱり感はあるが痛みがない程度に、早期の荷重と自動足関節運動を指導する。再断裂を回避するため、つまずいて急激な荷重をかけないように注意を促す。
(2)アキレス腱障害
病態
アキレス腱の前方には踵骨後部滑液包があり、後方にアキレス腱皮下滑液包が形成されることがある。アキレス腱障害の発症は運動量と関係があり、使い過ぎにより生じ慢性化しやすい。
踵骨後部滑液包炎は踵骨後外方の骨性隆起と軟部組織の肥厚を伴っている事が多い。踵骨後上方隆起が後方に突出してる場合に靴による圧迫を受けやすい。アキレス腱皮下滑液包は靴などの機械的刺激により皮下とアキレス腱の間に後天性に形成される滑液包である。
『症状』
アキレス腱障害では歩行時やスポーツ時の局所の疼痛が主症状である。疼痛部位はアキレス腱付着部から2〜6cm近位のことが多い。つま先立ちによる局所の疼痛のために爪先立ちが不能になることもあり、日常生活活動やスポーツにおける障害が問題となる。
他動的には足関節背屈時のアキレス腱ストレッチによる疼痛、抵抗下の足関節背屈時痛を認め、腱自体あるいは腱周囲の腫脹、熱感を伴うことが多い。
『診断』
トンプソンテストは陰性であり、圧痛、腫脹部位によりアキレス腱周囲炎/アキレス腱症であるか、あるいは滑液包炎であるか見当がつくが、MRIが有用である。
踵骨後部滑液包炎は発生機序が靴と密接な関係がある。ランニングなどのスポーツ時に疼痛を訴え、踵骨外後方の骨性隆起と軟部組織の肥厚を伴ってアキレス腱皮下滑液包炎を合併しやすい。初期にはアキレス腱付着部内側に圧痛を認めることが多い。足関節を背屈させると疼痛が増強する。アキレス腱症を合併することもある。MRI画像上、典型的な踵骨後部滑液包炎では拡大した滑液包に水腫を認める。
『治療』
保存療法が原則。アキレス腱障害では誘因となったランニング、歩行距離の短縮やスポーツその他の活動を一時中止することも必要となる。急性期はアイシングも必要となる。その後、アキレス腱ストレッチ、足底挿板・踵の緩衝装具の装着(アーチ保持、ヒールリフトによるアキレス腱への負荷の軽減が目的。シリコン製のvisco spotなどが有効である)
アキレス腱皮下滑液包炎では不適切な靴は変更させる。踵にパッドを当てたりvisco spotなどで補高し、場合により消炎鎮痛剤を処方する。滑液包内へのステロイド注射は有効であるが、漫然と続けるべきではない。保存療法に抵抗する症例に対して手術療法が選択されることもある。
アキレス腱周囲炎ではパラテノンの切除、アキレス腱症では腱内の変性部分が大きい場合は足指屈筋腱などによる補強術が必要となる。